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株式会社サイバーセキュリティクラウド
戦略事業室 Public Affairs
神山洋介

レポートサマリー
- 2026年9月前後から、国内組織における不正アクセスによる情報漏えい被害が相次いでおり、国家サイバー統括室やJPCERT/CCなどが注意喚起を発出しています。当社の観測でも、短時間に多数のIPアドレスを使い分けて認証回避や情報窃取を探る攻撃を確認しています
- 本レポートでは、令和9年度(2027年度)の概算要求に示された施策を、①能動的サイバー防御の実装・運用、②AIへの対応、③量子時代への備え、④国内セキュリティ産業の振興・海外展開の4つの観点から整理します。
- 能動的サイバー防御(サイバー対処能力強化法および同整備法) の実装やAIを活用した防御技術の開発、人材育成などが重点領域とされ、実践的なサイバーセキュリティ人材育成に86.6億円、AIを活用した防御技術等に65.5億円が要求されています。こうした政策の進展は、公共領域だけでなく民間企業のセキュリティ対策や投資を後押しする可能性があります。
1.はじめに
企業を標的とするランサムウェア被害や大規模な情報漏えいが相次いで報じられています。警察庁の発表によれば、令和8年(2026年)上半期の国内ランサムウェア被害届出件数は123件に達し、2020年下半期の統計開始以降で半期として過去最多を記録しました(※1)。今年9月以降、国内組織を狙った不正アクセス・情報漏えい事案は相次いで報告されており、国家サイバー統括室および関係省庁、JPCERT/CCなどは今月、それぞれ注意喚起を発出しています(※2)(※3)。
2.相次ぐ不正アクセスと当社の観測
当社が2026年10月に公開した調査レポート(※4)では、この一連の攻撃に関連する通信を観測した結果、同一とみられる攻撃者が約40分間で326のIPアドレスを使い分け、1,200件を超えるアクセスを複数回にわたって行いながら、認証回避や情報窃取の可能性を探っていたことを確認しました。レスポンスの内容に応じて手口を切り替える様子から、当社はAIエージェントまたはそれに近い仕組みによる攻撃の可能性があると考えています。こうした攻撃が広がれば、攻撃の自動化・高度化はこれまで以上の速度で進むおそれがあります。
3.概算要求に見る重点領域
サプライチェーンや委託先を狙った攻撃は、IPAの「情報セキュリティ10大脅威 2026」でも組織向けの2位に挙げられています(※5)。サイバーセキュリティは企業の経営課題にとどまらず、経済安全保障・国民生活の基盤を支える課題として、国全体・社会全体での対応強化が急務となっています。
こうした情勢のなか、各省庁から提出された令和9年度(2027年度)予算の概算要求には、サイバーセキュリティ関連予算の拡充方針が明確に表れています。政府がどの領域に重点的な投資を進めようとしているのかを把握することは、今後の国内サイバーセキュリティ市場の成長領域を見通すうえでも重要です。
3-1. 能動的サイバー防御の実装と運用
まず注目すべきは、昨年成立した「サイバー対処能力強化法及び同整備法」の施行を踏まえた予算化要望です。同法は、政府がサイバー攻撃の兆候を早期に把握して被害を未然に防ぐ「能動的サイバー防御」 を可能とし、基幹インフラ事業者等に特定重要電子計算機の届出やインシデント等の報告を義務付けるもので、2026年10月1日にも一部が施行され、制度の具体的な運用が進みつつあります。
これを受け、国家サイバー統括室や防衛省・自衛隊の体制整備や、警察庁サイバー警察局の捜査・分析基盤強化に関する要求が計上されるとともに、総務省はNICTを通じた実践的なサイバーセキュリティ人材の育成に86.6億円(前年度比5.6倍)を要求しています(※6)。能動的サイバー防御の実装が、検討フェーズから実装・運用フェーズへ移行している点が、令和8年度予算との比較における大きな変化の一つです。
3-2. AIへの対応
総務省は、AIを活用した防御技術の開発や、政府端末等による脅威情報の収集を通じた「サイバー対処能力確保のためのエコシステムの形成」に65.5億円を要求しており、このうち24.8億円は要望枠として計上されています(※6)。こうしたAIを活用した防御の高度化に加え、企業のAI利活用に伴うリスクへの対応も重要な論点です。本レポートでは、AIシステム固有の脆弱性や情報漏えいなどのリスク評価・対策についても、今後の需要拡大が見込まれる領域と考えます。
また、IPAの「情報セキュリティ10大脅威 2026」では、「AIの利用をめぐるサイバーリスク」が組織向けの第3位に初めて選出されました(※5)。AIの業務利用に伴う意図しない情報漏えいや、AIを悪用したサイバー攻撃などのリスクが指摘されており、企業にとってもAIの安全な利活用に向けた対策が重要性を増しています。
3-3. 量子時代への備え
量子コンピュータ時代を見据えたPQC(耐量子計算機暗号)への移行やeシール(電子的な発行元証明)の活用に向けた実証事業に3.5億円が要求されています(※6)。また、広域量子暗号通信ネットワークの構築・運用技術の実証に向けた取組も進められており、量子関連技術の研究開発から実証・実装への移行が重視されつつあります。
3-4. 国内セキュリティ産業の振興と海外展開
もう一つの大きな柱が、国産セキュリティ産業の振興と海外展開支援の継続的実施です。総務省では「安全性・信頼性を確保したデジタルインフラの海外展開支援事業」が継続的に展開されています。経済産業省では産業サイバーセキュリティ強靭化やスタートアップ支援を通じ、国内ベンダーの競争力強化とサプライチェーン全体のセキュリティ投資促進を図る方針が示され(※7)、サプライチェーン強化に向けたセキュリティ対策評価制度(SCS評価制度)など、新たな制度の構築も進められています。
4.結語
政府の概算要求が示す重点領域は、サイバーセキュリティが国家安全保障の課題にとどまらず、産業競争力や企業の事業継続を支える重要な基盤として位置づけられていることを示しています。こうした政策の進展は、公共領域だけでなく、民間企業におけるセキュリティ対策の高度化や投資拡大を後押しし、国内サイバーセキュリティ市場の中長期的な成長機会につながるものと考えられます。
企業にとっては、こうした政策動向を、自社のセキュリティ投資や人材育成の優先順位を見直す手がかりとして捉えることが重要です。今後は、概算要求の予算化過程を踏まえ、制度の運用や実証事業の成果が民間企業の具体的な対策需要と、社会全体のサイバーセキュリティ強化にどう結実するかを注視していく必要があります。
参考情報
(※1)警察庁「令和8年上半期におけるサイバー空間をめぐる脅威の情勢等について
https://www.npa.go.jp/publications/statistics/cybersecurity/data/R8kami/R08_kami_cyber_jousei.pdf
(※2)国家サイバー統括室「不正アクセスによる漏えい等の事案を踏まえた対応について
https://www.cyber.go.jp/pdf/press/taiou.pdf
(※3)JPCERT/CC「直近で相次いでいる国内組織における不正アクセスに関する注意喚起」
https://www.jpcert.or.jp/at/2026/at260030.html
(※4)株式会社サイバーセキュリティクラウド「国内で相次ぐ不正アクセス、AIエージェントによる攻撃の可能性 約40分間で326のIPアドレスを使い分け、1,200件超のアクセスを繰り返す」
https://www.cscloud.co.jp/news/report/202610099351/
(※5)IPA「情報セキュリティ10大脅威 2026」
https://www.ipa.go.jp/security/10threats/10threats2026.html
(※6)総務省「令和9年度総務省所管予算 概算要求 参考資料」
https://www.soumu.go.jp/main_content/001089628.pdf
(※7)経済産業省「令和9年度概算要求・税制改正要望について」
https://www.meti.go.jp/main/yosangaisan/fy2027/index.html
※本レポートは2026年10月14日時点の公開情報に基づき作成しています。記載した予算額は令和9年度(2027年度)の概算要求段階の金額であり、今後の予算編成過程において変更される可能性があります。