API脆弱性診断とは?
API脆弱性診断は、APIの安全性を専門家の目線で総合的に検証する取り組みです。認証機能やアクセス制御、負荷対策など、攻撃の温床になる項目を詳しく調査し、情報漏えいやサービス停止などのリスクを防ぎます。
昨今のAPI連携におけるセキュリティインシデントの増加を受け、システムの脆弱性を早期に特定し対策することが重要となっています。認証機能に不備があると管理者権限が不正取得され顧客情報が流出する可能性があります。また、APIキーが盗まれると個人情報が漏えいしたり、負荷対策が不十分だとDDoS攻撃でサービスが停止したりする可能性もあります。
APIの信頼性、確実性を確保することは、企業のデジタルビジネスの継続的な成長に不可欠な取り組みです。

OWASP Top 10 API Security Risksとは
APIの脆弱性対策について検討する上でおさえておくべきは、「OWASP Top 10 API Security Risks」です。「OWASP Top 10 API Security Risks」は、OWASP(Open Web Application Security Project)が作成しているAPIセキュリティの世界標準のガイドラインです。実際のインシデント事例や、セキュリティ専門家の知見を基に、APIに特化した重大な脆弱性がまとめられています。
2023年9月に公開されたOWASP Top 10 API Security Risks 2023によると、「破損したオブジェクトレベル認可」「認証メカニズムの不備」「過度なデータ公開」が上位を占めており、これらのリスクに対する適切な対策の実装が強く推奨されています。
このガイドラインは、APIの設計段階からセキュリティを考慮する上で重要な指標となっており、多くの企業のセキュリティ施策に取り入れられているので、内容をしっかり確認しておくことをおすすめします。
Webアプリケーション診断との違い
Webアプリケーション診断は、主にユーザインターフェースを介した検証が中心です。一方、API診断では、APIの接続先の認証・認可の仕組み、アクセス制御の検証など、よりテクニカルな観点からの診断が求められます。
仕様を公開するAPIは、リクエスト・レスポンスの構造やアプリケーションのロジックが外部から推測されやすいという特徴があります。そのため、認証機能の不備や権限設定の誤りがあった場合、管理者権限の不正取得、顧客情報の漏えいなどのインシデントにつながる可能性があります。
さらに、APIではクライアントアプリケーションとの連携や、大量のデータ処理を考慮した負荷テストなど、API特有の診断項目も重要となります。そのため、API診断では専門的な知識と経験を持つセキュリティ専門家による検証が不可欠です。
APIで注意すべきセキュリティリスク
API特有のセキュリティリスクには、認証・認可の不備による不正アクセス、データの過度な公開、リソース制限の設定ミスの3つが特に重要です。これらのリスクは、実際のインシデントでも多く発生しています。それぞれの特徴と対策について解説します。
認証・認可の不備による不正アクセスのリスク
APIの認証・認可の不備による脆弱性は、主に3つのパターンで発生します。
第一に、JWT(JSON Web Token)の署名検証の不備や、ブルートフォース攻撃への対策不足、脆弱なパスワードポリシーなどの認証メカニズムの問題です。
第二に、オブジェクトレベルの認可の不備があります。これは、APIリクエストのパラメータを改ざんすることで、本来アクセスできないはずのデータにアクセスできてしまう脆弱性です。例えば、ユーザーIDのパラメータを変更するだけで、他の顧客の個人情報や取引履歴が取得可能になってしまうケースがあります。
第三に、機能レベルの認可の不備です。これは、一般ユーザーが管理者向けの機能にアクセスできてしまうなど、ユーザーの権限に応じた機能制限が適切に実装されていない状態を指します。
このような脆弱性が悪用された場合、データの漏えいや改ざん、システム設定の不正な変更など、深刻なインシデントにつながる可能性があります。
データの過度な公開のリスク
APIを介した意図しないデータの公開は、インシデントを引き起こします。過剰な情報を含むAPIレスポンス、エラーメッセージによる内部情報の開示、一括データ取得(Mass Assignment)の制限不備など、様々な形でデータ露出が発生する可能性があります。
特に、APIレスポンスに含まれる過剰なデータは要注意です。例えば、ユーザープロフィールの取得APIで、表示に必要のない機密情報(内部ID、メールアドレス、電話番号など)まで返してしまうケースがあります。また、エラー発生時にプログラムの実行過程や内部のファイル構造などの技術的な詳細情報(スタックトレース)が返され、システムの内部構造が露呈してしまう可能性もあります。
このようなデータ露出は、個人情報保護法違反や、より高度な攻撃の足がかりとなる可能性があるため、APIの設計段階から適切なデータフィルタリングの実装が必要です。
リソース制限の設定ミスのリスク
APIのリソース制限が不適切な場合、以下のような問題が発生する可能性があります。
まず、リクエスト頻度の制限や、データ取得量の制限不足です。 APIリクエストの頻度制限がない場合、短時間で大量のリクエストを送ることができ、サーバの過剰な負荷によりサービス停止につながります。また、一度のリクエストで取得できるデータ量に制限がない場合、大量データの取得によりデータベースの負荷増大や、予期せぬインフラコストが発生します。
ファイルアップロードにおいても、ファイルサイズやファイル形式の制限が不適切な場合、ストレージの枯渇や、不正なファイル形式による攻撃が可能になります。また、並行処理の制限が適切でない場合、同時処理数の増加によりシステムリソースが枯渇し、全体的なパフォーマンス低下を招きます。
これらの問題に対しては、Rate Limiting(リクエスト頻度の制限)の実装、ページネーション(データの分割取得)の導入、適切なファイルバリデーション、並行処理の制限など、具体的な対策が必要です。
API脆弱性診断の種類と特徴
企業のセキュリティニーズに応じて、最適な診断方法を選択することが重要です。各診断方法の特徴と、実際の適用事例を紹介します。
テストツールによる診断
テストツールによる診断は、APIの脆弱性を効率的に検出する手法です。API仕様書やエンドポイントの情報を基に、認証バイパスやデータの過度な公開といった一般的な脆弱性を自動的にチェックします。
新しいテストツールでは、生成AIの技術を活用することで、より高度な脆弱性パターンの検出も可能なものもあります。
一方で、ビジネスロジックに関連する複雑な脆弱性や、APIの使用目的に応じた権限設定の適切性など、システムの利用状況に依存する問題の発見には限界があります。
手動診断(専門家による診断)
セキュリティ専門家による手動診断では、ビジネスロジックを考慮した取引処理の流れやデータアクセスの検証など、詳細な分析が可能です。API間の連携や、システム全体のデータフローを確認することで、ツール診断では発見が難しい複雑な脆弱性を特定できます。
例えば、複数のAPIを組み合わせた際の認証バイパスの可能性や、取引処理における権限チェックの抜け漏れ、ビジネスロジックの不備(価格操作、取引順序の改ざんなど)、データ整合性の問題など、システムの特性に応じた脆弱性の検証が可能です。
一方で、診断に時間とコストがかかることや、エンドポイントの網羅的な検証が難しいといった課題もあります。そのため、重要度の高いAPIを優先的に診断するなど、効率的な診断計画が必要です。
ハイブリッド診断の有効性
ハイブリッド診断は、テストツールによる網羅的なチェックと、セキュリティ専門家による手動による詳細分析を組み合わせた手法です。両方の手法の利点を活かすことで、効率的な脆弱性診断が可能です。
例えば、ツール診断でまず脆弱性の一次スクリーニングを行い、その結果を基に専門家がビジネスロジックを考慮して詳細に検証します。このアプローチにより、診断精度を保ちながら効率的な診断が可能になります。
このように、ハイブリッド診断は、システムの規模や重要度に応じて柔軟に診断方法を組み合わせることができ、費用対効果を最大化できることから、多くの企業で採用されています。
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サイバーセキュリティクラウド「脆弱性診断サービス」
長年のWebアプリケーション脆弱性診断で培ったノウハウを活かし、高度なAPIセキュリティ診断を提供しています。以下のような特長があります。
- ツール診断とセキュリティ専門家による手動診断を組み合わせたハイブリッド診断により、効率的かつ正確な脆弱性の検出を実現
- OWASP Top 10 API Security Risksに準拠した診断基準により、最新のセキュリティリスクに対応
- API仕様書がない状態でも診断可能
さらに、診断結果を基にAPI仕様書を作成し、開発ツールで利用可能なOpenAPI(Swagger)形式で提供することも可能。これにより、セキュリティ診断だけでなく、APIの継続的な運用・管理もサポートしています。
